琵琶湖の小鮎は食材として古くから親しまれている他にも、小鮎文化に重要な役割を担っている。
「鮎苗(あゆなえ)」という言葉がある。読んで文字の通り、小鮎を植物の苗のように育てたもののことをいう。大きく育てられた小鮎が放流用として生きたまま日本中の河川へ輸送されているのだ。
そもそも長い間、小鮎は琵琶湖の固有種であると信じられてきた。大正時代、東京帝国大学の石川千代松教授が『コアユはアユの陸封型であり、他のアユと同一である』ことを発見した。小鮎を他の河川に移入すると普通の鮎と同じように大きく成長するのだ。この新発見に全国の鮎好きは喜んだという。
それまで鮎が遡上してこなかった河川に琵琶湖の小鮎を放流することで、大きく育つのだ。
滋賀県では、その可能性にいち早く着目し、昭和の初めから漁獲した小鮎の稚魚を、一定期間生簀で飼って大きく育ててから全国に出荷するようになった。トラックや列車で全国に運ばれ、特に、当時の国鉄では活魚専用の貨車番号「ナ」(ナマザカナのナを意味する)が滋賀県から多く出発していた。
小鮎は、琵琶湖が育む特別な鮎なのである。