本当の意味で琵琶湖は海と繋がっていた時代があった。
江戸時代、チヌやボラなど海水魚が琵琶湖で捕れたという記録が残っている。淀川を遡上してきたのである。
鮎は日本列島の河川に広く棲息し、早春、海から川を遡上する魚である。寿命一年故に「年魚」、独特の香りから「香魚」とも呼ばれている。

明治33年、南郷洗堰の大規模な工事が始まって以来、数々のダム建設により湖と海が隔てられた。江戸時代、海から淀川を遡上してくる鮎もいたのだろうか……。
琵琶湖の晩秋……、川を遡上した鮎たちは産卵を終え、生まれた新しい命は再び湖に戻り成長する。そのまま琵琶湖に留まり育つものは、体長10センチに満たず、「小鮎」と呼ばれ、湖の畔に独特の食文化を育んできた。春に、琵琶湖へ注ぐ川を遡上する鮎は、他府県の鮎と同じく大きく20センチ以上に成長する。

湖が海と繋がっていた時代……。小鮎は幾世代も湖水で生活し続け、既に遺伝子レベルで他の鮎とは異なっており、おそらく海を目指したことはなかっただろう。
小鮎は琵琶湖によって育まれた特別な鮎なのだ。