イオシマとニゴロブナ
ニゴロブナの鮒寿しは、この母なる琵琶湖が育んだ郷土料理です。
いまでこそスローフードという言葉が注目され、時間と手間ひまをかけた食べ物を見直す動きが盛んになってきていますが、琵琶湖のほとりでは、遥か昔から当然のように鮒寿しを漬けてきました。
長い年月をかけてできあがる鮒寿しは、保存食であるとともに、栄養価の高い健康食でもありました。
琵琶湖の畔には「イオシマ」という言葉が今も残っています。
「イオ」は「魚」で「シマ」は「島」という意味。大群で移動する魚影を「イオジマ」…。琵琶湖独特の光景だったに違いありません。
また、琵琶湖の漁師はニゴロブナのことを「イオ」と呼んだとも聞きます。ニゴロブナは琵琶湖で独自の進化を遂げた、この湖にだけ棲む固有種です。鮒寿しに使われるニゴロブナは、姿かたちが源五郎鮒に似ているからと「似五郎鮒」と呼ばれました。源五郎鮒も鮒寿しとして用いられるますが、似五郎鮒はその稀少価値と共に、鮒寿しの代名詞となっています。
守山市で5月に行われるすし切り祭。鮒寿しは生活文化の中にも息づいています。
鮒寿しは未熟卵を抱えた雌魚が最上とされ、「あゆの店きむら」ではニゴロブナにこだわり続けています。3月、4月の塩切り(塩漬け)にはじまり、3ヶ月以上塩に漬けた鮒をキレイに洗い、再び飯と塩で本漬けにします。それから更に、1年以上の月日と手間暇をかけ、鮒寿しはできあがるのです。塩加減、飯の量、水加減、重し加減によって、独自の風味を有する鮒寿しとなります。
鮒寿しは、日本で最も古い形のなれ鮨でもあり、平安初期の宮中の行事や制度を記した「延喜式」にも登場します。
そして、湖国を代表する食文化として、1998年(平成10年)に県指定無形民俗文化財に指定されました。
鮒寿しはまさに、淡海が育んだスローフードなのです。
琵琶湖の特産品「鮒寿し」。
脈々と語り継がれる歴史と大自然のなかで育まれた近江のスローフード鮒寿しをご紹介します。